「いやではないけれど……。でも、とても驚いたわ。こういうのは、もっと仲のいい恋人同士がやることだと思うの」

 本物の姉弟であれば、この程度のことはあるのかもしれない。けれど、セドリックとミレイナはあくまで他人で、しかも身分も違う。

 この本の常識を照らし合わせるのは難しい。

「恋人同士か……。じゃあ、この本はまだ我慢しておく」

 セドリックはミレイナが抱いている本を引き抜くと、テーブルの上に置いた。

「じゃあさ、まだ、恋人じゃない僕たちはデートで何をすればいいの?」
「考えていなかったわ。セドリックは読書が好きだから、いつもとは違う場所で本を読んだら新鮮かなと思ったの」
「で、ミレイナはケーキを食べる? ……それって、場所が違うだけでいつもどおりじゃないか」
「いいじゃない。場所が違うだけで特別感があるもの」

 いつもセドリックと会う部屋は、天井まで届く本棚にびっしりと本が並べられた場所だ。ソファとテーブルはあるけれど、他は何もない。

 父の書斎よりも整然としているのだ。

 八年も通うと、父の書斎が整理されていないだけのようにも感じるけれど。

「わたくしはセドリックとの時間が好きよ。本を読んでいる横でスイーツを楽しむ。それだけで幸せになれるわ」