セドリックは得意げに笑う。ミレイナは顔を引きつらせた。

 ちらっと表紙を見れば、『デートの基本 初級』と大きな文字で書いてあった。初級ということは中級や上級があるのだろうか。

 読書家でもある彼は、昔から気になったことはすべて本で調べていた。彼曰く、『人に聞くよりも早く、確実で煩わしさもない』ところがいいそうだ。

 そんな彼が何も調べずにデートを決行するはずがなかった。

 他の頁も見てみたいような、見てみたくないような気持ちでいっぱいだ。

 ミレイナは好奇心に負けて、本を捲った。デートの誘い方から、場所選び、シチュエーション別の対応方法など、その内容は多岐に渡る。

 ただ、これは……。

(これは王族が読むものではないと思うの)

 読むべき本を身分で決めるべきではないと思うのだが、本の内容に従って行動したらスキャンダルになりそうなことばかりだ。

 そして、この本の内容をすべて試されてしまってはミレイナの心臓が持たない。

 セドリックからしてみれば、ただの好奇心なのだろう。本に書いてあることを実践するだけ。しかし、好みの顔でそんなことをされてドキドキしないわけがない。

 この本の知識はヒロインとの本物の恋が始まってから使えばいいと思う。ミレイナは本を閉じると、そのまま腕に抱えた。

「こういうことは本を頼ってはいけないと思うわ」
「どうして?」
「相手があるものだからよ。お互いの年齢や関係性で変わるでしょう? マニュアルどおりの行動が相手を傷つけることだってあるわ」
「ミレイナはさっきの、いやだった?」

 顔を覗き込まれてミレイナは思わず後ずさった。

 昨日からセドリックとの距離が近い。彼の目的は明白だ。

 ミレイナを結婚相手とすること。

 この八年、ミレイナはセドリックの一番近くにいたと自負している。彼は恋愛に興味がない性格だ。原作小説でもしっかりと恋愛下手に描かれていた。

 面倒な恋愛をせずに結婚まで済ませてしまおうと思っているに違いない。

(こういうときは先生として、しっかり教えてあげないと!)