「どうして? 甘いものは苦手でしょう?」
「ミレイナがあまりにも美味しそうに笑うからさ」

 セドリックはそう言うと、フォークに乗ったケーキをパクリと食べてしまった。

「甘い……」
「だからって言ったじゃない」
「いつもよりニヤニヤしてるから騙された」
「それは……」

(金髪美少年の推しを堪能してたから……)

 などと言えば、変態だとバレてしまう。そうなったら近くでこの御尊顔を拝めなくなる可能性もあるのだ。

「セドリックは甘いものが苦手だから何を食べても一緒に感じるのよ」
「ふーん、そんなものか」

 クッキーの一枚も完食できないセドリックが、それ以上に甘いケーキを美味しいと思うはずがない。

「もうわたくしの食べかけを食べてはだめよ。こんなことをしたと知られたら『はしたない』って怒られてしまうわ」
「いいだろ? ここには僕と君しかいないんだからさ」
「そうかもしれないけれど、どこに目があるかわからないわ」

 セドリックは王子で、ミレイナは貴族の令嬢だ。誰がどこで二人のことを見ているかなどわからない。

 一応、先生としてセドリックの側にいるのだ。外聞が悪くなるようなことはきちんと注意しなければならないだろう。

「味が気になるのであれば、もう一つ頼めばいいのよ」
「でも、ここに『デートでは一つの料理を二人で分け合うと距離が縮まる』って書いてある」

 セドリックは一冊の本を広げて言った。確かに書いてある。

「これは……なんの本なの?」
「デートの本。予習は大事だろ?」