「ウォーレンと? 本当に?」
「ええ」
「ウォーレンがこんなところを好むなんて意外だな」

 セドリックは怪訝そうな顔をした。その反応も仕方ない。

 ミレイナの兄、ウォーレン・エモンスキーはどちらかというとガサツなタイプだ。洒落たカフェとは無縁で、ほとんどの人生を剣に捧げてきた。

「お兄様にだって可愛いところはあるのよ」

 まだ結婚したばかりの妻のためにこのカフェを見つけ出す純情さはあるのだ。妻の前では気弱になるなど、セドリックも知らないだろう。

「まだ甥っ子が生まれる前の話よ。お義姉様がつわりで行けなくなって、代わりにわたくしがお兄様と一緒に行ったの」

 ミレイナは思い出しながら笑った。まだ義姉のおめでたがわかってすぐのことで、屋敷の中はお祭り騒ぎ。そんな中、折角の予約が勿体ないからと義姉にせっつかれ、兄妹できたのだ。

「お兄様ったら、お義姉様が心配でずーっとそわそわしていて、カフェを楽しむどころじゃなかったのよ」

 ミレイナが『お兄様だけでも帰っていいのよ』と言っても、『そんなことをしたら妻に怒られる』と言って提案を却下され、『なら早く帰りましょう』と言っても『早く帰ったらあいつが気に病むかもしれない』と言うのだ。

「そんなに心配なら僕が代わりに行ったのに」
「本当にそのとおりよね。セドリックを連れてくればよかったわ」

 兄と行くよりも何十倍も楽しかっただろう。

 会話こそ少ないが、セドリックが本を読んでいる側で彼の顔を眺めながらスイーツを堪能するひと時は格別なのだ。

 彼は年々美しく成長している。あまりの神々しさに直視するのすら難しいと思うほど。

 甘いケーキと濃い紅茶。目の前には前世からの推し。

 ミレイナはケーキを口に運びながらにんまりと笑った。

「一口ちょうだい」