さらに学問を追求しただとか、剣技に磨きをかけただとか、綺麗な言葉が並べられていただけだったのだ。つまり、この八年間で起こったことは些細な出来事にしかすぎないということ。

 つまりつまり、ミレイナと少し仲良くなったところで原作にはさほど影響がないということだ。

 ミレイナからしてみれば、その原作というものはどうでもいいことだったが、ミレイナの中にある前世の部分が「原作は大きく変えてはいけない」と強く思っているようなので、それに従うことにした。

「僕は学ぶ必要などない」
「そう言わないでください。わたくしが行ってすぐ帰ってきてしまいましたら、家族にがっかりされてしまいますから」
「学ぶ必要がないのに?」
「学びは学問だけではありません。わたくしが殿下に教えて差し上げられることはそうですね……。人とのかかわり方でしょうか」

 セドリックはピクリと眉を跳ねさせた。彼は十歳とは思えないほど大人びていたが、こういう風に感情を表に出すところはまだまだ子どもだ。

 ミレイナは苦笑する。

(セドリック殿下は偏屈なところがあるから、正攻法よりも同情を引いたほうがいいのかもしれないわね)

 ミレイナは顔を曇らせて言った。

「殿下は聡明な方ですから、本当のことを申し上げますね」
「……本当のこと?」
「はい。先生というのは単なる口実なのです。実はわたくし、ひどく人見知りをするものですから両親が心配して殿下の話し相手という役割を用意してくださったのです」