セドリックの言葉の意図がわからず、ミレイナは首を傾げた。殿下は殿下だ。見慣れない金の髪が太陽の光を浴びてキラキラと光っている。

 セドリックは痺れを切らしたように口を開く。

「ミレイナが僕のことをそんな風に呼んだら、変装した意味がないだろ?」
「本当だわ……! わたくしったらうっかり」

 店も貴族を相手にするのは慣れていても王族となると話は別だろう。店員が極度に緊張してしまってはセドリックも楽しめないはず。

「なんと呼んだらいいのかしら? 坊ちゃん?」

 彼はあからさまに嫌な顔をした。最近、彼は子ども扱いされるのを嫌がる。

「そんな目で見ないで。なら、若様はいかが?」
「……セドリックでいい」
「名前を呼ぶなんて不敬だわ」
「今更、不敬も何もないだろ」
「そうかもしれないけれど……」

 敬称もつけずに名前を呼んだなんて知られたら、いつも甘い両親だって怒るに違いない。

(この年で怒られるのはいやよ)

 もう二十三歳。分別のわかる大人だ。子どものように叱られる年ではない。

「これは勉強だろう?」
「そう、なのかしら?」

 確かに教えるとは言ったけれど、デートとは勉強するようなことではないと思うのだが。こういう時のセドリックは頑固だ。

「勉強なら不敬にはあたらない。そうじゃないと正しいことは教えられないだろ? ミレイナ先生(・・)」
「そうやって都合のいいときだけ先生って呼ぶんだから……」

 ミレイナは小さくため息を吐く。

「ほら、呼んでよ。セドリックって」