「それは絶対にない」

 ミレイナの言葉にセドリックが間髪入れずに答えた。似た髪の色だし、パッと見た感じで姉弟に見られてもおかしくはないと思ったのだが。

(よく考えたら、こんな美形と姉弟だなんておこがましいわ)

「そんなことより、早く行こう」

 セドリックが促すようにミレイナの肩を抱いた。
 ミレイナはセドリックに会う以外はほとんど出かけないのが常だ。身体を動かすことも社交も苦手だった。

 同じ年代の令嬢から来るお茶会の誘いはセドリックとの一時間と時間が被っていることが多く、いつもセドリックを優先させてきたのだ。

 つまり、あまり友人はいない。王都のデートスポットの情報などほとんど知らないに等しかった。

 しかし、年上の威厳を見せるためにも、いや、今後のヒロインとのデートを成功する鍵を握っているのはミレイナしかいないのだ。

 ミレイナは数少ない情報の中から、王都の端にある湖へと向かった。

 馬車で四十分。景色を見ていればあっという間だ。

 そう、あっという間。

「殿下、牛がいるわ」

 都心から離れるにつれて、普段は見ないものが見える。ミレイナは、牧草を食べる牛を差して弾んだ声で言った。

 エモンスキー公爵家に馬はいるが牛はいない。

 ふだん見かけない動物を見るとワクワクする。

 セドリックはつまらなさそうに牛を一瞥すると、ミレイナに視線を戻した。

「ねえ、ずっと『殿下』って呼ぶつもり?」