ミレイナが隠れられるほどの大きな箱だ。

 箱の中には服が何着も入っている。ふだんセドリックが着ないような服ばかりだ。

「どんなかっこうがいいかわからなかったから考えられる限りの服を用意した」

 セドリックの説明にミレイナは一番上に置いてある服を一着取り出す。

 ペラペラでシワシワの生地でできたシャツ。

 これをセドリックが着るというのだろうか。

「どんなかっこうをすればいい?」
「ここまで変装する必要はないわ。連れて行こうと思っていた場所は貴族や平民の中で富裕層向けのお店なの」

 王族が来たとわかればてんやわんやだろうから、もう少し控えめなかっこうのほうがいいけれど、ここまでボロボロである必要はない。

「ではこちらではいかがでしょうか?」

 従者は愛想笑いを浮かべながら、箱の中から一着の服を取り出した。

(本当に考えられる限り用意したのね)

 そういうところがセドリックらしいとも言える。彼は几帳面なところがある。

 この前もそうだった。

 八年前、ミレイナはセドリックと一時間一緒にいる権利を得ているのだが、その日は話のキリもよかったので、少し早く帰ろうとしたのだ。

 しかし、セドリックが難しい顔をして『あと十分も残っている』と言った。

 几帳面で頑固な証拠だろう。

(なんとしても今日は『デート』というものを経験したいのね)

 ミレイナは小さく笑った。やはり身体が大きくなっても子どもらしいところは残っている。

「ではわたくしもそのお洋服に合わせて着替えますから、準備ができたら廊下にいるメイドにお伝えください」