「デートをわたくしが?」

 セドリックはミレイナの問いに深く頷く。その顔は真剣だ。

「そういうのはもっと詳しい人に聞いたほうがいいと思うけれど……」
「もし、僕がデートの仕方を人に聞いていたなんて噂が立ったら、王族の面目は丸つぶれだろ? その点、ミレイナなら口が固いし安心だ」

 確かに、とミレイナは頷いた。

 王族は一言一行を見られている。セドリックがデートの仕方など人に聞いていると知れば、彼に近づきたい女性がたくさん押しかけてくる可能性もあるのだ。

 そうなると、ヒロインのシェリーとの出会いがうまくいかなくなる可能性もある。

「わかったわ。任せてちょうだい! 全部、わたくしが教えてあげる」

(と、見栄をはったけど、今世では一度もデートなんて行ったこともないわ。……お兄様たちはどこに行っていたかしら?)

 ミレイナの参考になる人物といえば、両親と兄夫婦くらいだ。彼らはよく二人で出かけていき、ありったけの荷物を抱えて帰ってくる。

「そうだわ。お買い物とかどう?」
「……買い物?」
「ええ、殿下はいつも王子宮から出ないでしょう? 街でお買い物をしたら楽しいと思うの」

 我ながら妙案だと思った。高位の貴族や王族は買い物にはでかけず、商人を通して買いつけることが多い。

 エモンスキー家も例外ではないのだが、家族は外に出てする買い物が好きだった。

 ミレイナも例外ではない。社交場は苦手だが、家族と行く買い物は好きだ。店の扉をくぐったとき、パッと世界が変わるあの高揚感。きっと、引きこもりのセドリックは知らないだろう。

(いろんなお店を知っておけば、本当のデートをしたときにスマートに案内できるわ)

 と、いうのは口実で、セドリックにいろんな服を着せて楽しみたいというのが本音だ。十八歳になったセドリックはどんな服装でも着こなせそうなほど美少年に育った。