もっと違う反応を期待していた。『へぇ、すごいじゃん』くらいのことは言ってくれると思っていたのだ。

 人付き合いはいいほうではないが、セドリックよりは社交的であると自負している。こういうときこそ頼れるお姉さんぶりたかった。

(とっても怒っているみたい。もしかして、のけ者にされたと思って怒っているのかしら?)

 他人には興味がないといってもまだ年頃の男の子だ。ミレイナは背伸びをするとセドリックの頭を撫でた。さらさらの髪が揺れる。同時に紫色の瞳も揺れた。

「昔のことだから覚えていないわ。殿下と会う前の話よ。……だから、そんなに怒らないで」

 事実、前世のことはよく覚えていないことが多い。年々、記憶も薄れてきたように思う。

「……怒ってない」

 不機嫌そうに言ったセドリックはミレイナの肩に顔を埋めた。彼の少し甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 こういうとき、ミレイナはただ彼の背中を撫でるようにしていた。

 幼いころから母親の側を離れて王族に必要な学問などを叩き込まれたせいか、セドリックは甘えるのが下手なのだ。これは、下手なりの甘えだとミレイナは知っている。

 突然、彼はパッと顔を上げた。機嫌を直したのか、ニイッと口角を上げる。

「詳しいなら教えてよ」
「何を?」
「デートだよ。デート。ミレイナは僕の先生なんだから、デートがどんなものか教えてくれるだろう?」