一度見てみたいけれど、そこに押しかけるつもりはない。そんなところまでお邪魔したら馬に蹴られて死んでしまうだろうから。

 ヒロインとのめくるめくひとときを想像して、ミレイナは頬を緩ませた。

 緩んだ頬をセドリックがつまむ。

「いひゃいわ」
「全然意味がわかってないみたいだから」

 セドリックは不機嫌そうに眉を寄せた。いつも興味なさそうに澄ました顔をしているのに、怒るなんて珍しい。

 つい、そんな表情をじっくりと見てみたくなって顔を覗き込んだ。

 眉間の皺がますます深くなる。

「ちゃんとわかっているわ」
「ふーん。じゃあ、今日から本気出すから覚悟してもらって」

 セドリックはそれだけ言うと、ミレイナの頬に口づける。頬といってもほとんど唇の端のような場所だ。

 ミレイナは慌てて頬を押さえた。

「で、殿下っ!? どうして!?」
「一年間、君を口説かないとは言ってない」
「……意味がわからないわ」
「ほら、やっぱりわかっていない」

 彼はこれ見よがしにはあ、と大きなため息を吐き出した。

「もうこれ以上我慢しないし、もう『弟』だなんて言わせない」

 彼の瞳に映るミレイナの頬は林檎のように真っ赤だった。