最後はヒロインの元に行くのはわかっているのだ。一度交わした婚約を白紙に戻すことがあれば、ミレイナにも悪いイメージがつきまとうだろう。

 平凡な人生を送るためにも、名前に傷はつけたくない。

「なぜ? 年齢以外はつり合いが取れているのに?」
「殿下はこれから社交界にデビューして、いろんな出会いがあるわ。今はわたくししか周りにいないから、妥協しようと思えるのよ」

 前世の記憶が正しければ、セドリックの前に現れるシェリーはとても可愛らしく、心優しいいい子だ。

 セドリックを本当に幸せにできるのは彼女しかいないだろう。ミレイナが割り込んでいいわけがない。

「わたくしで妥協したら、一年後には後悔することになるわ」
「そんなことは絶対にない」
「蓋を開けてみないとわからないでしょう?」
「なら、賭けよう。一年後も僕の気持ちが変わらなければ、結婚して」

 セドリックはミレイナの髪をひと房つかむと、唇を落とした。どこでそんな仕草を覚えるのだろうか。さすがは物語のヒーローというべきか。

 ミレイナは目を瞬かせる。

「いいわよ。なら、わたくしが賭けに勝ったら何をもらおうかしら?」
「屋敷でも領地でもなんでも。まあ、屋敷も領地も僕と結婚したら君の物だけど」

 半年後に運命の出会いがあることを彼はまだ知らない。

(二人の愛の巣は奪わないであげる)

 ハッピーエンドを迎えたあとに二人は幸せに暮らす。セドリック所有の離宮は緑豊かで一年中花が咲いているのだとか。