「殿下っ!? なぜここに? ちょっと……!」

 セドリックはミレイナを抱き上げると、会場を出る。ざわめきを背に、無力なミレイナは何もできなかった。

 彼はミレイナを抱き上げたままずんずんと進んでいく。庭園のガゼボまで連れていかれた。暗がりの中、他に人はいない。

「殿下、どうしたの?」

 彼はまだ社交界にデビューしていない。来るはずのない彼が現れて、みんな驚いたことだろう。ミレイナだって突然のことに驚いている。

「あれが結婚相手?」
「あ、れ……?」

 ミレイナは首を傾げた。「あれ」と言われてもどれかわからない。

「金色の奴」
「金……? フレソンさん? ただダンスを一曲ご一緒しただけよ?」
「楽しそうにしていた。ああ言うのが好きなのか?」
「普通、仏頂面でダンスなんてしないわ」

 仏頂面でダンスが許されるのはセドリックくらいなのではないだろうか。

「あんな男は君にふさわしくない。アンドリュー・フレソン、二十八歳。フレソン侯爵家の長男。独身だが外に女が三人、婚外子は二人」
「まあ! 詳しいのね」
「それくらいの情報は勝手に入ってくる」

 ずっと部屋にいるのに?

 ミレイナは再び首を傾げた。セドリックは人と会うことを嫌い、人の訪問を拒んでいる。

 セドリックが誰とも会わないせいで、ミレイナに繋ぎを求めてくる人が後を絶えないのだ。

 そんな彼がアンドリューの情報を知っているとは思わなかった。しかも、かなりプライベートなことまで。

「安心して。フレソンさんとは本当に一曲ご一緒しただけよ」
「君は騙されやすいから、こんなところで結婚相手を探すのはやめたほうがいい」