セドリックは第三王子ではあるが、王族には変わりない。将来国王にならなくとも、王族として国政に関わっていくことになる。特に彼は生まれたときから様々な才能を発揮しているから、期待値も高いのだ。

 彼と繋がりを欲する人は山ほどいた。そして、そんな彼との繋がりを持っているのは今のところミレイナだけなのだ。

(わたくしの結婚に殿下の名前を利用するのはだめね。もっと身分が低い人のほうがいいのかも)

 王族との関わりが低い人。打算的でない人のほうが望ましい。

 前世の記憶があるからか、質素な生活にも慣れている。二十三年間で与えられたミレイナの予算のほとんどは残っていた。それがあれば、質素にであれば年老いるまで暮らせるだろう。

(でも、原作が終わるまでの期間は社交界にも顔を出したいのよね)

 できれば一番近くで物語を鑑賞したいのだ。そのあとは時折顔を見られれば安泰だろう。

(そうなると、王都で働く役人とか騎士もいいかしら)

 ミレイナはアンドリューに笑顔を返しながらも、頭の中は結婚の計画でいっぱいだった。気づけば、いつの間にか一曲踊り終えていたのだ。

「ミレイナ嬢はダンスもお上手なのですね」
「いえ、アンドリュー様のエスコートがお上手だったのでしょう」

 素直に言えば、ほとんど記憶にない。一度や二度、足を踏んでいるかもしれない。

 ミレイナは他の令嬢に比べて、ダンスの経験が少なかった。元々夜会にも年に数回しか参加しないうえ、最近では練習もおろそかにしている。

 たくさん踏んでいれば、次に誘われることもないだろうから気にすることもないだろうか。

「せっかくですから、向こうでゆっくりお話ししませんか?」
「でも、そろそろビルが迎えに……」
「まだ彼は話に夢中みたいですよ?」

 確かにビルはアンドリューの言うとおり楽しそうにおしゃべり中だった。

 このまま誘いを無下に断っても、あまりいいことはないかもしれない。ミレイナは「では、少しだけ」とアンドリューの手を取ったのだ。

 しかし、一歩を踏み出す前に後ろから腰を抱かれ、思いっきり後ろへと重心を崩した。

「きゃっ!?」

 驚いて振り返ると、見知った顔があった。――セドリックだ。