「せっかくですから、ダンスでもいかがですか?」

 出会って三秒でダンスとは気が早い気もする。けれど、会話の内容も思いつかないので、ダンスをしていたほうがいくらかましかもしれない。

「あまり得意ではないので、足を踏んでしまうかもしれませんがよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ」

 アンドリューに差し出された手を取る。

 彼は金髪の美丈夫だった。ダンスをしているあいだ、前世の記憶を辿ったが、アンドリューという名前の男の登場はなかった。つまり、彼もミレイナと同じエキストラだ。

「まさか、ミレイナ嬢とダンスをご一緒できる日がこようとは思いませんでした。遠くから見てもお美しいと思っていましたが、近くで見ると更にお美しいですね」
「まあ。お世辞がお上手ですのね」

 お世辞は慣れている。

(美しいっていうのはセドリックのような人のことをいうのよ)

 彼以上に美しい人のことをミレイナは知らない。そして、セドリックと比べたらミレイナなど足元にも及ばないことはよく理解しているのだ。

「ミレイナ嬢はセドリック殿下と親しいと聞きましたが。……長く教師をされていたとか」
「ええ。教師と言っても、殿下は才能のある方ですからただのお話相手ですわね」
「ご謙遜を。殿下は気難しい方ですから、ただの話し相手も難しいかと。何人もの人が彼と関わりを持とうとして失敗してきました」
「彼は少し人見知りなところがありますから」

 ミレイナは曖昧に笑った。

 ミレイナが毎日セドリックに会いに行くようになって、他にも同じことをして彼と仲を深めようとした貴族がいたと聞く。彼らは全員、セドリックに追い払われたとも聞いた。

(この人はわたくしを通して殿下と繋がりがほしいのね)