従弟のビルのエスコートで夜会に行ったのはそれから数日後のこと。

「ミレイナ姉様が結婚相手を探しているなんて知らなかったよ」

 ビルは笑いながら言った。彼はミレイナよりも二歳年下の二十一歳。彼には婚約者がいる。田舎に住んでいるため、基本的には王都の社交場には出てこなかった。

 だから、ビルは婚活のためとエスコートをお願いしたら、あっさりと承諾してくれたのだ。

「わたくしだってもう二十三だもの、結婚相手くらいは探すわ?」
「いや、だってさ。セドリック殿下がいるだろ?」
「なぜわたくしの結婚に殿下が関わってくるの? 殿下はこれから素敵な女性と出会うのよ」

 みんなはまだ知らない。あと半年もすれば愛らしい少女との恋がはじまるのだ。人嫌いの彼がヒロインに心を溶かされ、恋を知っていく。

(凍った心が少しずつ溶かされていくのよ。……楽しみだわ)

 美男美女の恋愛を想像して、ミレイナはうっとりと頬を緩めた。

「ま、いっか。ミレイナ姉様が本気を出したら一分で相手が決まるよ。どんな人と結婚したいのさ?」
「そうねぇ。誠実で優しい人がいいわ」

 大恋愛には興味がない。

 大恋愛とは惚れた腫れたと騒ぎ、カロリーを使う行為だと思う。そういうのは美男美女がやってこそ。ミレイナのようなエキストラは大人しく、条件のよさで決めればいいのだ。恋愛に使うカロリーをすべて物語を傍観するために使うつもりである。

「他には? 顔の好みとかさ」
「顔にこだわりはないわ。でも……わたくしみたいに普通の女でも尊重してくれる人がいいわね」
「ミレイナ姉様が普通って、それは謙遜がすぎるよ」
「はいはい。わかっているわ。ありがとう」

 ミレイナは従弟の優しい言葉に言葉に笑みを浮かべた。しかし、事実だ。ミレイナは物語にピックアップもされないようなエキストラ。普通でなければなんだというのだろうか。