一哉君をはじめて見たあの日から、
私はどうやって一哉君と出会おうか考えた。

偶然を装って、桐生一仁に知られる事なく、
そして一哉君に好意を持ってもらえるような出会い方。
最初は同情でもいい、
とにかく悪い印象だけは持たれないように。

そんな中不意にチャンスはやってきた。
私がよく通う図書館に一哉君が来たのだ。

まさかと思った。
お金持ちのお坊ちゃんがわざわざ図書館なんてくる訳がない。
でも、よく見てもやっぱり一哉君で。

驚きはあったけどこんなにも自然な出会いのチャンスはない。
入口のところで悩むように立ち尽くす一哉君に私は近づいて肩を軽く叩いた。

驚いて振り向いた一哉君に私も驚いた顔をして遠慮がちに言葉をかける。

「あ、その……、驚かせてごめんなさい。
だけどここ、出入口だから……」

そこからはとにかく笑顔で無邪気に接した。
怪しまれない様に、少しでも好意を持ってもらって懐に入れる様に。

長期戦も覚悟していた、 
だけど一哉君はあっさりと私に心を開いた。
自分の事、家族の事を詳しく話してくれた。

一哉君には一哉君の悩みがある事も知った。
でもそれで私の決意が揺らぐ事はなかった。

甘いよ、一哉君。
不仲で自分を放ったらかしの両親?
それが何?

あんな大きなお屋敷で家政婦が何でもしてくれて何の不自由もないじゃない。
本当の自分をさらけ出せない?
知らないよそんな事。
誰だって本当の自分なんて全てを出せる相手なんていないよ。
多かれ少なかれ自分を偽って生きているんだよ。

甘い悩みにイライラした。
だけど私はそんな甘いお坊ちゃんに寄り添うように泣いてあげた。
それから一哉君は益々私に縋るようになっていった。

……まだだよ、
まだ足りない。

君のちっぽけな悩みなんてどうでもいい。
君にはここまで堕ちてもらわなきゃいけないんだから。

一哉君には私のところまで堕ちてもらう。
それは桐生一仁への復讐にもなる。

桐生一仁、
あなたの大事な大事な跡取り息子は、

私が暗闇に堕としてあげる。
私と同じ罪を背負ってもらうから。

そう、ママを苦しめたあの女は、

一哉君に殺してもらうから――。