それから僕達は限られた時間ではあったが一緒に過ごす様になった。
梓葉と過ごす時間は全てが新鮮で楽しかった。
公園で遊んだ事のない僕に遊具の使い方を教えてくれた。
手遊びやカードゲーム、植物の名前、
僕の知らない事をたくさん教えてくれる。

そして梓葉はいつも笑顔だった。
いつも楽しそうに笑い、遊び、はしゃぐ。
そんな梓葉を僕はいつも向日葵みたいだと思っていた。
太陽に向かって真っ直ぐに伸び咲き誇る向日葵、
それが梓葉だと。

お互いの家族の事も話した。
梓葉はひとりっ子で、両親は小さいながらも工場を経営しているそうだ。
家族の事を話す梓葉はとても嬉しそうで僕は羨ましかった。
きっととても大事に育てられたんだろう、
だって、梓葉が両親の事を大好きだと笑顔で言ってたから。
僕はあまり多くは語らなかった。
父親は仕事が忙しくてあまり会わない事、
母親は教育熱心で息がつまる事、
そんな事を軽く、話した。
何でもない様に笑いながら話したのに、
梓葉は悲しそうな顔をして、僕の手を握った

『私は、かず君といっぱいいっぱい、会うから!
勉強しろ、なんて言わないから!
だから、私は、
私はかず君にそんな悲しい顔、させないから!』

目に涙をためてそう言った梓葉。
僕は、悲しい顔をしているのか……?
その答えはすぐに出た。
だって、頬に涙が流れてきたから。

……そうか、僕は悲しかったのか。
父親が家にいない事も、
両親揃って、家族で食事をする事がない事も、
両親が、
僕に対して跡継ぎとしてしか価値を見出さない事も、
本当はずっと、嫌だったんだ。

その日は梓葉と2人で泣いた。

それから梓葉は本当に僕とたくさん会ってくれたし、
悲しい顔をする暇なんてない位に笑わせてくれた。
こんなにも笑えるのかと思う程に、梓葉といると楽しくて嬉しくて幸せで、
いつも笑っていた。
梓葉が笑って、僕も笑う。 

……ああ、やっぱり梓葉は向日葵だ。 
見るだけで人を笑顔にする、
ただただ、太陽に向かって真っ直ぐに伸び咲き誇る、
そんな向日葵。
そんな向日葵を枯らさないためなら、
僕は何でもする、
そう思う程に梓葉は僕にとってなくてはならない大切な存在になっていた。

小学生の時に出会った僕達は、
中学生になっても桐生の家の人間の目を盗んでは会っていた。 
お互い思春期に入り、お互いを異性としてみる時期。
それでも僕達は小学生の頃と同じ様に図書館で一緒を本を読んだり、図書館の庭園でたくさん咲いている植物を一緒に見て回ったり、公園のベンチで話したりと変わらない遊び、関係を続けていた。

そんな関係が変わるきっかけは中学3年の時だった。
正直に言うとこの頃には、
いや、もっと前から僕は梓葉をひとりの女の子として意識していたし、好きだという気持ちにも気づいていた。
だけど、梓葉は変わらない関係を望んでいたように思えた。
中学生の男女が手をつなぐ、そんな行為はつきあっている男女がする行為だろうと誰もが思うだろう。 
だけど僕達は中学生になっても小学生の頃の様に当たり前に手をつないでいた。
梓葉はいつも当たり前の様に自然に僕の手を握る。
そこに異性としての意識なんて何もない、
ただ純粋に友達だから、ずっとこうだから、
そんな気持ちしかない。
そんな梓葉にモヤモヤする気持ちがないと言えば嘘になる。
だけど僕は、梓葉の変わらない気持ちも、手をつなぐという行為も好きなんだ。
まわりが異性を意識し始める中、梓葉は変わらず真っ直ぐに僕に友達としての好きを伝えてくれていた。
それが僕は嬉しかった。
人間なんてすぐに気持ちは変わる。
それが恋人だと尚更だ。
だから、何も変わらない好きを伝えてくれるのは、
何だか安心感もあった。
例えこのまま恋人とかじゃなく友達としてつきあっていくとしても、
いや、だからこそずっと一緒にいられるんじゃないか、
そんな一方的な安心感。

そんな安心感が打ち砕かれたのは、
梓葉が告白されているところを見てしまった時。 

梓葉との待ち合わせ時間よりだいぶ早く図書館に着いた僕は、このまま待つより迎えにいこうと思った。
今から梓葉が通う学校へ向かえばちょうど梓葉の下校時間に間に合うだろう、
急に僕が学校の前で待っていたら梓葉は驚くかな、
だけど、驚きながらも喜んでくれるだろう。
学校へ迎えにいくとか、何だか恋人同士みたいだ、なんて僕は浮かれていた。

そんな僕の浮かれた心はすぐに打ち砕かれた。

梓葉が、男と2人で歩いているところを見た時に。