刑事と別れた後、そのまま家に帰る気になんてならずにただ歩いた。
辺りはもう暗くなっている。
スマホを取り出すと20時を過ぎようとしていた。

ああ、母さんに連絡しとかなきゃ、
そんな事を思いながらふと足を止めると、ある公園が目にうつる。

……ああ、見覚えがある、
この公園は柚葉がはじめて俺に胸の内を話してくれた公園だ。
あの女に酷く暴力を受けて髪を切られ、ひとり泣いていた公園。

あの時の柚葉と同じ様にブランコに座る。

あの時、柚葉はどれだけの苦しみや悲しみを背負ってここに座っていたのだろうか。

どれだけ苦しかったのか、
どれだけ心細かったのか、
どれだけ、
ひとりで泣いたのだろうか。

ずっとずっと、ひとりで耐えて耐えて耐え抜いてきた柚葉。
そんな柚葉を俺は何としても助けたかった。
守りたかった。

それは今も変わらない。
柚葉は俺が守る。
俺の、
俺だけの天使。

柚葉、
声が聞きたい、
今すぐに。
そう思った瞬間、柚葉に電話をかけていた。

だけど、スマホから聞こえてくるのは無機質な音だけ。
こんな時間だ、食事中かも知れないしお風呂に入ってたりするのかも知れない。
また後でかけ直そう、そう思いスマホをポケットに押し込もうとした瞬間、スマホから着信音が流れてきた。
柚葉?
そんな思いから少し浮き足立つ気持ちでスマホの画面を見るとそこには自宅の番号が並んでいた。

ああ、母さんに連絡してなかったから……、
少し平常心を取り戻し電話に出た俺の耳に、予想もしていなかった声が響いた。

「もしもし、母さ……」

「一哉、今どこにいる?」

俺の言葉を遮り聞こえてきたのは、低く冷たい父親の声だった。

「……え、父さん……?」

あまりにも予想外の人物に俺はそれだけしか言えない。

「今どこにいると聞いている。
いつ帰ってくるんだ」

相変わらず要件のみを簡潔に聞いてくる。
そしてその質問にはこっちも簡潔に答えないといけない。
昔からそうだ。

「……後20分程で帰ります」

「分かった、早く帰ってきなさい。
話がある」

そう言ってこっちの返事も待たずに通話は切れた。

……父さんが俺に話がある?
一体何だ?
学校の成績は下がっていない。
家でも何も問題なく過ごしている。

……もしかして今回の川西さんの事が父さんの耳に入ったのか?
母さんには俺からは何も話していない、
川西さんの件は事故として生徒に発表している学校が、わざわざ両親に連絡するとも考えられない。
だとしたら父さんが今回の川西さんの件を知るすべはないはずだ。
だけど、あの父さんがわざわざ家に早くに帰り俺の帰りを待っている、
そんな事、今まで一度だってなかった。

……妙に胸騒ぎがする。

とりあえず早く帰らないと、
そう思い家へと歩くが、段々と早くなる鼓動に息がしづらくなるのを感じた。