「俺が、冬野柚葉を殺しました」

その言葉は驚く程酷く部屋に響いた。

出入口の重たく頑丈なドアのすぐ横に小さな机に椅子、
部屋の真ん中には少し大きな机に向かい合う様に置かれた二脚の椅子。
窓には鉄格子、壁にはマジックミラー。
無機質な壁は殊更空気を冷たく感じさせる。

いわゆる取調室、そんな部屋で今正に犯行を自供した男はすっきりとした様な、それでいて穏やかな笑みを浮かべている。

「……私が知りたいのは君が冬野柚葉を殺したと言う動機だ。
君と冬野柚葉は幼なじみで恋人だった。
君にとって大事な存在だったはずだ。
そんな君が何故彼女を――」

そう彼に問い詰める刑事の言葉を遮る様に男は小さく笑った。

「……何が可笑しい?」

「いえ、可笑しくて笑った訳じゃないんです。
気に触ったのならすみません」

そう言って向き合って座る刑事を真っ直ぐに見つめて、彼は次の言葉を紡ぐ。

「そうですね、動機を調べるのは刑事さんにとって大事な仕事ですからね。
……少し、長くなるけれど構いませんか?」

「ああ、構わない。
むしろひと言で簡単に話せる程に軽い話だとは思っていない」

「ありがとうございます」

刑事の言葉に、冷たく閉ざされた部屋に似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべたまま、
男は話始めた。

「どこから話しましょうか。
……そうですね、まずは俺と柚葉の出会いからですかね」

相変わらず穏やかな笑みを浮かべながら男は記憶を呼び起こす様にゆっくりと話始めた。

自分が殺した少女、冬野柚葉と自分自身のふたりの物語を。