「ちょっと、やめてよ!」

 部屋の外から大和の声がしてそちらに目をやると、彼女と鈴木の距離があまりに近くて思わず立ち上がってしまった。

 考えるよりも先に体が動いて、気づけば2人の後ろに立って声をかけていた。とにかく鈴木を大和から引き離したい。俺は用事もないのに鈴木を連れて部屋に戻った。

「彼女と‥‥随分仲がいいんだな」

 軽い世間話を装って探りを入れる。あくまでもさりげなく、だ。

「‥‥?あー大和さんですか?まー同期ですし」

 ただの同期があんなに顔を近づけるか?

「それにしては楽しそうだった。何か面白い話でもあったのか?」

 場繋ぎとしてしょうがなく聞いている感を出すため、適当にパソコンを操作する。

「いや?別に?」

 別にだと!?そんなわけあるか!誤魔化そうとするなんて逆に怪しい奴だな!

「ブフッ!」

 パソコンのディスプレイから目を離して顔を上げると、鈴木が笑いを必死で堪えていることに気がついた。なんだ?どういうことだ?

「社長ってそんなに無表情でもないんですね?いやむしろ、わかりやす過ぎません?さっきあれ?って思ったけど、勘違いじゃなさそうだ」

「‥‥‥‥なんの話だ?」

「大和さんと社長、同じ匂いですよね?女性用のシャワールームは大和さんしか使ってないけど、明らかに男用のアメニティとは質が違う。なんでかなって思ってたけど、なんか今の社長見てたら理由がわかりました。社長が大和さんと同じ匂いになりたくて‥‥」

「それ以上は言うな!‥‥というかその顔、どうにかならないのか!?」

 鈴木のにやけ顔が無性に腹立たしい。

「いや、無理ですって。だって俺、今魔王の弱み握っちゃってますよね?あれ?もしかして殺されちゃう?」

 どうやら鈴木は俺の秘密に気づいてしまったようだ。ならばしょうがない。余計なことを考えないで済むように仕事の難易度を一気に上げてやろう‥‥

 バン!!と大きな音を立ててドアが開き、西谷が必死の形相で部屋に飛び込んできた。

「真島!そいつは駄目だ!頼むから鈴木を潰すのだけは勘弁してくれ!」

「西谷?何をそんなに慌ててるんだ?俺は鈴木が優秀だから新しく仕事を任せようとしていただけだぞ?」

「そんなの信じられるか!お前はそうやって他の新人も潰しただろうが!」

 それは濡れ衣だ。あいつらに暇と余裕がありそうだったから少し負荷を上げただけで、潰そうなんて思っていない。

「お前が朱莉ちゃんに近づく男を潰して回るのをやめないなら、俺が朱莉ちゃんを辞めさせるからな!」

「そんなことさせるか!」

「あのー‥‥」

 西谷の登場で放置されてた鈴木が口を挟む。

「ドア開いてるけど大丈夫ですか?」

 焦って部屋の外に目を向けると全員がこちらに注目していた。青ざめて震える彼女と目が合う‥‥これは絶対に大丈夫じゃない。