私が運命を肯定したことで、社長の中では私との交際がスタートしているようだった。

 社長のことが好きかと聞かれると正直よくわからない。でもあんなに怖いと思っていた社長を今では少しかわいいとすら思っているし、社長が優しい人なのは間違いない。

 社長は危ないところを助けてくれたヒーローだ。就職先の決まらない私を拾ってくれたのも社長。何より社長は私の黒歴史をいい思い出に塗り替えてくれた。

 嫉妬深いし、思い込みも激しそうだし、困ったところもたくさんあるけど、それを上回る程素敵なところがあると思う。

 これがきっかけで、曇りっぱなしだった社長室のガラスが透明に変わったら、きっと私はそれを嬉しいと感じるだろう。

 これまではずっとうしろを走っていた社長が隣を走ってくれたら、それもきっと嬉しい。

 お姫様抱っこも恥ずかしかったけど悪くはなかった。

 もしかしたら、私は自分が思ってるよりも社長のことが好きなのかもしれない。だとしたらこのまま社長と付き合ってみるのも、きっとありだ。

「大和、抱き締めてもいいだろうか?」

 わざわざ確認してくるところが社長らしくて好ましい。でも返事をするのはちょっと恥ずかしいので、自分から抱きついてみる。

「はあああ‥‥大和‥‥いい匂いだ‥‥」

「いや、匂いを嗅がれるのはちょっと‥‥」

 そう言って社長の腕の中から逃げ出すと、真顔の社長の瞳が悲しげに揺れていた。ちょっとかわいい。だけど無理なものは無理なのだ。

 私と社長の交際はまだ始まったばかりだ。これからどうなるのかは未知数。だけど、私も社長のことが大好きになれたらいいなと思う。

 多分、近い将来、きっとそうなる。

 (完)