用意された部屋にはベッドとチェストしかなかったので、私はダイニングテーブルで仕事を始めた。すると何故か、これまで仕事部屋に籠りきりだった社長も、同じテーブルで作業を始める。

 はじめは落ちつかなかったが、しばらくすると気にならなくなった。

 それに、私が行き詰まっていると社長の方から声をかけてくれるのだ。ある程度は自分で考えないと成長できない。社長はその加減が絶妙で、もの凄く程よいヒントをくれるから、時間を忘れて仕事に熱中してしまった。

「少し休憩した方がいいんじゃないか?」

 社長がコーヒーとお茶菓子を用意してくれたらしい。何から何まで本当に申し訳ない。お礼を言ってありがたくいただく。

「これ‥‥休憩所のコーヒーとお菓子も、社長が用意して下さってるんですよね?ありがとうございます。いつも美味しくいただいてます」

「え?あ‥‥いや‥‥」

 真顔だ。でも動揺してるっぽい?よくよく見ると、社長の目が泳いでいる。

「あ!そういえば!私、社長に聞きたいことがあったんです」

「なんだ?」

「この前の夜、なんで社長があの公園にいたのかなって‥‥」

 き‥‥聞いてはいけなかったのだろうか?社長の眉間に皺が寄り、隠しようがない程目が泳ぎ出す。ああ、ついに頭を抱えてしまった。

「じ‥‥実は‥‥」

 本当に、聞いても大丈夫なんだろうか?急に不安になってきた‥‥

「夜、遅い時間に大和が走って帰るのがどうしても心配で、会食とかがない限り、いつも大和のうしろを走って追いかけていたんだ‥‥」

 え?

「いつかあんなことになるんじゃないかと心配で心配で‥‥それが現実になったことで、これまで制御できてたはずの俺のリミッターが完全にいかれてしまった」

 えっと‥‥制御できてたのにうしろからついてきてたの?え?それで更にいかれたら、一体どうなっちゃうの?

「今の俺は、西谷にも嫉妬してしまうし、大和がそばにいないと不安で仕事が手につかないんだ。どうしようもないポンコツだよ」

 ポンコツって‥‥なんだ?あまりいい意味でなさそうだけど、骨的な何かだろうか?

「前に親や兄弟と同じ感じの好きだと言ったのは嘘だった。俺は大和に女としての魅力を感じている。俺はどうしようもなく大和のことが好きなんだ。最近部屋に引きこもってたのは、大和が寝ていたベッドの匂いに興奮して、全く抑えが効かなくて‥‥合わせる顔がなかった」

「抑えが‥‥効かない‥‥?」

「ああ!違う!部屋に籠って変なことしてた訳じゃないぞ!?ちゃんと真面目に仕事をしてたんだ!ただ、初日の夜に‥‥その‥‥変なことをしてしまって‥‥気まずくて‥‥」

 私は一体、何を聞かされているんだ‥‥?