仕事は絶え間なく与えられ続け、常に締め切りに追われる。締め切りを守れなくてもミスをしても怒られる。ようやく少し慣れてきたかと思ったらじわじわと量が増え、それに慣れたら少しずつ難易度が上がっていく‥‥それはまるでゴールのない持久走のようなものだった。

 同期の仲間が徐々に脱落していくのを横目で見ながら、私は仕事に必死で食らいつく。いつしか周りを気にする余裕もなくなっていた。

 入社して半年‥‥深夜残業中にふと周りを見回して、私はようやくこの会社の異常性に気がついた。

 私の隣には唯一の同期となってしまった鈴木京介がいる。椅子に浅く座った状態で背もたれに体を預けた彼は、目は半開きだがディスプレイを凝視している。仕事中は常にヘッドホンを装着して周りの音をシャットダウンしているらしく、声をかけても無反応。この状態の時は口も半開きで酷い時には舌も出ている。外でこんな状態の人を見かけたら、私ならすぐに救急車を呼ぶだろう。だが彼の指は正確にキーボードを叩き続けているのだから、多分彼は正常だ。

 時刻は深夜11時。納期にはまだ余裕があるのにこの時間に残ってる人は、鈴木君程ではなくてもみんな似たような人達ばかりだった。凄まじく仕事はできるが言葉を選ばなければ『変人』どんなに言葉を選んでも『変わった人』としか言いようがない。

 そんな変わった人達に紛れて私が残業している理由は、単に仕事ができないから。明日締め切りの仕事で余裕を持って仕上げたつもりがテストをしてみたらバグが見つかり、原因がわからず結局こんな時間になってしまったのだ。

 この程度の設計書、鈴木君なら1時間程で仕上げてしまうレベルなんだと思う。彼と私が同期だなんて‥‥でき過ぎる彼がおかしいのか、できな過ぎる私がおかしいのか‥‥きっとどっちもなんだろう。

 唯一仲良くなれそうだと思った同期の女の子は入社早々に辞めてしまった。しんどい時に励まし合った男の子も、わからない部分を優しく教えてくれた男の子も辞めてしまった。

 残ったのは『変人』鈴木君と私だけ。

 私だってつらくないわけではない。だけど陸上で鍛えられた私の体と精神は、この程度ではくたばらないのだ。そんな私もきっと『普通ではない』のだろう。

 変人ではない人が逃げ出す会社は、多分普通ではない。

 普通ではないけど変人でもない私は、いつか限界が来て会社を辞めたくなるのかも‥‥でも他にいくあてがないのだから、それまではここで頑張るしかないのだ。