一旦落ち着いて話をしようと連れてこられたのは応接室だった。

 3人がけのソファーに社長と西谷さんが並んで座り、私は向かい側のソファーに座るよう促され中央に腰をおろす。

 気まずい雰囲気の中、口火を切ったのは西谷さんだ。

「あー‥‥さっきの話だけど‥‥朱莉ちゃん、どう思った?」

 どう思う‥‥?さっきはパニック状態に陥って自分が魔王の生け贄にされると半ば本気で思ってしまったが、冷静になればここは地球で現代日本だ。魔王なんて存在しないし、生け贄なんてあり得ない。『さっきの話』とは、西谷さんが私を辞めさせると言った件だろう。

「いきなりあんなことになったので驚いてちゃんと話を聞いてなかったんです。なんで私が辞めさせられるって話になったのか理解していなくて‥‥改めて理由を聞いてもいいですか?」

「ああ‥‥まじか‥‥完全にやぶ蛇だったな‥‥」

「聞いてないならこのままなかったことに‥‥」

「いや、やっぱりそうはいかないだろ?あそこにいた全員が聞いてたんだ。あいつら面白がって朱莉ちゃんをからかうんじゃないか?変に脚色されて伝わったら困るのはお前だぞ?」

 私の言葉に西谷さんが頭を抱え、社長と2人でボソボソと話し合う。私がからかわれる?どういうこと?

「朱莉ちゃん。不用意に辞めさせるなんて言葉を使ったのは完全に俺のミスだった。頑張ってる朱莉ちゃんを辞めさせるつもりは全くないから、本当に気にしないで欲しい。不安にさせるようなことを言って申し訳なかった」

 副社長でもある西谷さんに頭を下げられ恐縮してしまうが、会社を辞めなくてもよさそうだとわかってひとまず安心する。

「それで、なんでこんなことになったかって話なんだけど。真島が朱莉ちゃんのことが好き過ぎるのが原因なんだ」

 は?

「西谷!お前!何を言ってるんだ!?」

「は?だってそうだろ?お前が朱莉ちゃんと仲良くする新人達に嫉妬して嫌がらせをするからこんなことになったんだろうが!」

「嫉妬!?馬鹿言うな!!そんなの言いがかりだ!!俺は純粋にあいつらを教育しようと‥‥」

「馬鹿はお前だ!そんな言い訳通用すると思ってんのか?それでお前はいつまでその教育とやらを続けるつもりなんだ?社員がひとりもいなくなっちまうぞ!?」

「うう‥‥っ。だ、だからって、お前がそれを彼女に言うのはどうかと思うぞ!?第一あんな大勢の前でばらす必要なかったはずだ!!」

「お前が言うのを待ってたら話が進まないんだからしょうがないだろ?でも、まあ、さっきのアレは、確かに俺が悪かったよ‥‥」

 この2人‥‥仲がいいのか悪いのか。私は一体何を見せられているんだろうか?