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「あ、やだ! 彩葉じゃない! うっそ、久しぶり!」
「あ……麗奈」
「ねえ、お茶しない? いいよね。ほら行こう」
「え、ちょ……」

 数日後、高校時代の友人の友人であり、卒業後の同窓会で再会したのがきっかけで、大雅との接点を作ってくれたのも彼女、黒藤(こくとう)麗奈(れいな)だ。茶髪で小顔な彼女はスタイルもいい。服装も有名ブランドな服ばかりで春先に合わせたワンピースにカーディガンとエレガントだ。マニュキュアも季節に合わせてオシャレだわ。
 人見知りしない子で、そこは美点なのだけど……。

 最初の頃は、近況報告するぐらいだったけれど、会うたびに愚痴、大雅との関係でマウント発言や、盗み癖に、自分勝手な言動が目立つようになったので、疎遠にしていた。
 それにしても季節限定パフェを食べているけど、財布持ってきているのかしら?
 毎回、奢らされていたけれど……まだそのお金も返してもらってないのよね。沸々と今までのフラストレーションが爆発しつつあった。
 できれば、これ以上関わりたくないんだけどなぁ。

 麗奈は今も大雅の店でバイトを続けているので、大雅の顔を立てるためにも無碍にできないでいる。ここはできるだけ早く引き上げよう。

「ふーん。やっと大雅からプロポーズされたのね! 二年よ、随分とかかったわね」
「仕事も忙しかったって聞いているし、私も注文が多くて……ね」

 私の仕事は羊毛フェルト兼ぬいぐるみ作家。ハンドメイドも手掛けている。
 売れ筋は手のひらサイズの羊毛フェルトで猫や羊、狐。ぬいぐるみも人気があるけど、最近は部屋に飾れる系の置物が人気だったりするのよね。私の作品は前脚か後ろ足に、四葉のクローバーの刺繍を入れている一点物だ。

 SNSの宣伝効果もあってオーダーメイド依頼も増えて、展示会などに出店もして、そこそこ人気がある。
 古株のフォロワーさんの反応が私の楽しみであり、活力になっていた。
 でも、ここ最近……よく連絡をくれたメイさんからの反応がないのよね。海外で暮らしているって聞いたけど、お仕事が忙しいとか?
 頼まれていた作品の仕上げに確認したいことがあったのだけれど、今週末にでも改めて連絡してみようかしら。

「彩葉は昔から手先は器用だったけれど、まさかお店を持ってブランド化しちゃうなんてね。二号店とか出さないの?」
「え?」
「私が協力したら、もっと売れるようになるわよ!」
「ありがとう。でも今のところ新たに店を持つことは考えてないかな。ネット注文が多いし、集客もいいのよ。特に母の日にカーネションとセットだと好評なの」
「ふぅんー。じゃあ、私が受注関係の手伝いをしようか?」
「ありがとう。でも今のところ従業員二人で回せているから大丈夫よ」
「そっかー。残念ー。…………それで話は戻るけど、婚姻届は貰ってきたの?」
「ええ!? まだだよ。それにどんな形でも一度は大雅のご両親に挨拶したいから、それからね」
「ふーん。まあ、それならしょうがないわよねー。ねえ、今度。彩葉の家に遊びに行ってもいい? なんなら大雅がいる時でもいいし」

 麗奈は会うたびに家に来たがるが、私は彼女を家に入れるつもりはない。以前招待した時に家の中を家探しするは、仕事部屋に勝手に入って商品を持ち帰ろうとした前科があって以降、丁重にお断りしている。
 それも彼女の中では、なかったことになっているのかしら……。

「今は仕事も忙しいから、機会があればね」
「そっかーーー。残念だけどしょうがないっかぁ」

 ウダウダ言う前に伝票の前に、自分だけのお金を置いて「それじゃあ、私は仕事があるから帰るね」と返事も聞かずに席を立った。
 愚痴地獄はすでに懲りているので、振り返らない。後ろで「お金が足りない」とか「お財布が」と言っていたけれど、そう何度もその手には引っかからないわよ。
「次に返す」と、何度聞いたことか。大体お金がないなら、なんで季節限定パフェを頼んだのか考えてほしいわ。
 その日はなんとか麗奈に奢ることなく、逃げ切れた。どっと疲れながら仕事に必要な物を買って帰途に着いた。