「ふにゅう……」
「彩葉が……さらに可愛くなっている」
「ふにゅ。にゃははは。リュカが今日もキラキラしているぅ?」

 ビールジョッキ一杯で何だか楽しい気分になる。そういえば両親にお酒を飲むのは身内がいる時にだけって言っていたような?
 だから大雅と付き合った時もお酒を控えていた。そもそも付き合った時に両親は亡くなっていたから……お酒を飲むことはないんだなって、思ったんだった。
 あれ? でも私、何も考えないでビールを頼んでいた?

「リュカは身内じゃないけど?」
「え、なに酷い……」
「んー? お酒は身内とだけ飲むように言われたのに、リュカとなら良いっかって思ったの。不思議」
「え」
「にゃはは。あ、すみません、ビールお代わり」
「いや、彩葉! それ以上飲むのはダメだから!」

 リュカが顔を真っ赤にしながらも、お酒を飲むのを止めてしまった。久し振りにフワフワした気分だったのに、と睨んだが効果はなかった。悲しい。

「彩葉が可愛すぎる……。なにこのふにゃふにゃ……。もしかして試されている?」
「リュカ、えへへ。いつもありがとう」
「ああ、もう。彩葉はずるい」
「ずるいのはリュカ。いつもドキドキすることばっかりいうから心臓が保たないよ?」
「それって……私のことが好きってこと?」
「えへへ、………リュカのこと……す」
「す」
「すや……」

 その後のことはあんまり覚えていなかったけれど、リュカの温もりに包まれてすっごく幸せだったような気がする。
 結局、その日も一日デートはできず、午前中で家にUターンした。ちなみに抹茶クレープは夜になってから夜デートをやり直したのだけれど、リュカからは「私以外のところで絶対に、お酒を飲まないように」と念を押された時は両親と同じ口調だったのか何だか可笑しくて、懐かしくて、ちょっぴりっとだけ泣いてしまった。

「彩葉? え、ちょっと強く言いすぎたかい?」
「ううん。両親も同じように私を心配してくれたのを思い出したら、なんだか懐かしくて、それが嬉しくて……なんだか変ですよね?」
「ううん、そんなことはない。……私はいつでも彩葉の家族になる準備はできているから」

 なんて可愛らしいプロポーズなのだろう。
 抹茶クレープを食べ終わった帰り道で、レストランのような雰囲気もなにもない。それは大雅と大差なかったけれど、でもリュカの冗談めいたようなセリフとは裏腹に真剣だと伝わってきた。
 こんなに違うなんて。

「彩葉、愛している。私の奥さんになってくれないかい?」
「……はい。私もリュカと家族になりたいです」

 そう答えた時にリュカは私をギュッと抱きしめてちょっとだけ、泣いていた。そんな彼の温もりが愛おしくて、好きだって自覚する。

「大好きですよ」

 気付けば自然と好きだという言葉が口にしていた。
 勇気のいる言葉のように思えたのは、私がそう思い込んでいたから──。
 それと臆病だった私のことを根気強く、リュカが優しく包んでくれたからだわ。


 ***


 二年後。
 私の家には十二の三毛猫シリーズが玄関脇の棚に揃っていた。
 それだけじゃなく、三毛猫の親子や、他のシリーズも増えている。自作が増える度にリュカとの時間を積み重ねていったのだと実感した。

 ふふっ、本当にこの二年あっという間というか大変だったわ。
 豪華客船に乗り込んだらどこぞの映画のように難破するは、必要な材料を買いに行ったら不倫女の後ろ姿に似ているかと刺されそうになるなど、しまいには初めての海外旅行でリュカの元カノと一悶着あって死にかけたとか……思い返しても、スケールの大きな事件に巻き込まれている気がする。

 これってリュカが物流業界の大手企業のCEOだから、私の巻き込まれるレベルも上がっているとか?
 二年前の事件も結構大変だったけれど、今は巻き込まれの規模感が可笑しい。それでも今こうして生きているのは、リュカや神堂先生が水際で防いでくれているからだわ。

「彩葉、ただいま」
「お帰りなさい」

 最近やっと家族になった私たちは今の幸せをはにかみながら、どちらともなく微笑んだ。