「Oh, quel bonheur d'avoir Iroha si près de soi. J'ai envie de la serrer dans mes bras.」
「リュカ……なんて?」
「ん? 彩葉は可愛くてたまらないって話」
チュッとさりげなく頬にキスをするリュカに、ますます意識せざるを得なかった。
人生初の人力車の感想は、リュカの甘い囁き+キスでほとんど周囲の景色を堪能することなどできなかった。
なんでこうなった!?
それから雷門を通って浅草寺を観光。土日は人混みが激しいと思って平日に訪れたけど、観光地名なだけあって人、人、人。
人混みが多いので、ぶつかりそうになったけれどリュカが肩を掴んでくれたので、ことなきを得た。
「彩葉。人混みが多いから私の腕に捕まるか手を繋がない?」
「(腕は……距離感が近すぎるし、となると残るは手を繋ぐ。……大雅とも繋いでいた時があったけど、勝手に話してサクサク歩いて行くことが多かったのよね)ええっと……」
まごついている間に、リュカは私の手を繋ぐ。しかもこれは……恋人繋ぎだ。
なんだか恥ずかしい!
「顔を真っ赤にしているリュカも可愛いよ」
「リュカ……」
追い討ちのようにおでこにキスをしてくる。もはや息を吐くように、キスをしているような?
甘すぎる言葉に、暑っ苦しいほどの愛情。嬉しいけれど、恋人関係になったら変わってしまうんじゃないかって、不安になる時がある。
リュカと大雅は全然違うのに、そう思ってしまう自分が情けないし、申し訳ない。いつまでも引きずっているとリュカにも失礼よね。
「彩葉、抹茶クレープの店は、こっちかな?」
「うん……って、逆! こっち」
リュカを引っ張りながら、路地を歩く。浅草のスイーツ系は食べ歩き系が多くて目移りしてしまう。
「彩葉、あれはタイヤキだろう?」
「ええ、リュカは餡子とか食べられますか?」
「うん。母が昔オハギを作ってくれたからね。あの黒い塊を初めて見た時は、ビックリしたけどね」
「あー、それはそうかも」
クレープの前にタイ焼きを買って食べることにした。私は粒あんで、リュカはこし餡。たまたま食べるところを見ていたら、背中から食べていた。
そういえばタイ焼きの食べ方占い的なのあったよなぁ。背中から食べるのは、甘えん坊で感受性が豊かだったっけ? 涙もろいのも……合っているかも?
「ふふっ」
「彩葉?」
「ううん。タイ焼き美味しいね」
「うん。……でも」
「甘いものを食べたら、塩っぱいものが食べたくなった」
「わかる」
フィッシュアンドチップスのあるイギリス料理店に入って、せっかくなのでとビールを頼むことにした。
案内されたのは、二階のテラス席だ。
「本番イギリスだと定番の料理だけれど、それをもたらしたのはユダヤ人とされている。料理の歴史を紐解くと、見えなかった一面も見えてきて楽しい」
「うん、そういうのも、旅行先やデート先で気付くと楽しいわよね」
「彩葉と一緒だと余計にそう感じるのかもしれない」
「リュカ」
さらっと甘い言葉を言ってくるんだから。照れ臭さを誤魔化すためにビールジョッキを傾けた。でも、これがいけなかったんだと思う。