見れば博樹がふいに現れたその人物によって腕を捻り上げられると、そのままコンクリートの地面に向かって突き飛ばされた。

「俺の恋に触るとはいい度胸だ」

「あ、あんたは……」

「しゅ、うや……」

修哉はよろよろと起き上がる博樹を冷たく見下しながら博樹をギッと睨みつけた。

「よく聞け。次、彼女に触れたら容赦しない。彼女へのつき纏い行為として警察に被害届を出した上、彼女に精神的苦痛をあたえ侮辱した罪で俺の顧問弁護士から君と君の職場宛に訴状を送る」

「そ、そんなことできるわけ……」

俊哉が博樹の胸ぐらをぐっと掴んだ。

「くっ……」

「俺は本気だ。わかったら二度と恋の前に現れるな!!」

「っ……くそっ……覚えとけよっ」

博樹は苦虫を噛み潰したような表情を見せると、俊哉の手を払いのけ、勢いよく駆け出した。

修哉は博樹の姿が見えなくなると、すぐに私の背中に手を当て私をのぞき込む。

「ごめん、遅くなって。他には何もされなかったか?」

「うん、大丈夫……私こそごめんなさい……勝手に抜け出して……迷惑かけて」

少し声が震える。怖かった。まさか博樹があんな風に強引な事をするなんて。

「迷惑なんかじゃない、恋を守るのが俺の役目だから」

「修哉……」

私が両手を伸ばせばすぐに修哉が優しく私の身体を抱きしめてくれる。そして私の方へ顔を近づける。俊哉が何をしようとしているのか察した私は私は呼吸を止めたが、俊哉はすぐに私から顔を離した。

「恋、このまま抜け出さないか?」

「え?」

「全部話すよ──俺のこと」

そう言うと修哉が形のいい唇をゆるりと持ち上げた。