「──では失礼致します」

もう何十人挨拶したかもわからなくなって、私の笑顔が引きつってきた頃だった。

修哉が私を連れて会場の隅に移動する。

「大丈夫か」

「あ、はい。大丈夫です」

「喉が渇いただろう、これを」

修哉は会場の左右の端に並んでいる飲み物の中からオレンジジュースを取ると私に差し出した。

「ありがとうございます」

「いや、無理させて悪かった」

修哉はシャンパンに口づけながら申し訳なさそうに私を見ている。

「全然です、私こそ気を遣わせてしまってすみません。挨拶するだけなのに……」

「気にしなくていい。俺からしたら今日の恋は百点通り越して五百点満点だ」

「あの、ちょっと俺って……」

会場の端に居るため、私たちの会話が誰かに聞かれることはないが急に副社長モードを解除されると戸惑ってしまう。

「主要な取引先への挨拶は済んだから、恋は好きなものでも食べて休憩しているといい」

修哉は会場の前方にある料理の数々に視線を向ける。

「確かチョコレートケーキがこのホテルの一押しだ。あとは和食に定評がある。ここのホテルの料理長が去年開かれた創作コンテストで優勝したとか」

「すごい……食べてみたい」

「やっと笑ったな」