副社長室はクローバーデザイン本社の十階にあるため、私が今までいた三階の営業課のフロアよりも景色がいい。窓の外を見れば月が浮かび、星が無数に瞬いている。

(もう九時か……)

修哉は昼前に挨拶まわりに出てからからまだ戻ってきていない。出かける前に修哉から渡された、得意先の上役とその秘書たちの顔写真のついた名簿を見ながら私は、ため息を吐きだした。

「これ今まで全部一人でやってたなんて……」

修哉が外出してから、副社長室にはひっきりなしに電話がかかってきて秘書である私が電話応対をしたのだが、今日だけでもかなりの数の打ち合わせ依頼があり修哉の予定は再来週までほぼ埋まってしまった。

修哉からスケジュールは詰めれるだけ詰めておくよう言われていたが、共有のエクセルファイルを見ながら私はため息をつかざるを得ない。

「すごいな……」

経営手腕にも長け、誰もが認めるクローバーデザインの次期後継者に相応しい人材とは聞いていたが、こんなスケジュールをこなしながら副社長としての仕事も完璧にするなんて並大抵のことではない。

──コンコンコンッ