「もし恋が迷惑なら潔く身をひくつもりだ。でもそうじゃないなら、結論を出すのは契約書通り三か月後にしてもらえたらと思ってる」

修哉から向けられる真剣な目から視線が逸らせなくて、呼吸が自然と浅くなる。

(こんな目で見つめられたら……)

「恋? 今回だけでいい。俺のわがままを聞いてくれないか?」

そう言うと修哉が私のデスクに手を突いた。

そしてもう片方の修哉の手のひらが私のマウスを握る手に重ねられて、修哉の端正な顔が私の返事を待ちきれないかのように、ぐっと近づけられる。

ワイシャツから香る修哉の甘い匂いに心臓がぎゅっと痛くなって窒息しちゃいそうだ。私は一呼吸おいてから小さく口を開いた。

「わかりました……私に務まるかわかりませんが……公私ともに、お役に立てるよう頑張ります」

「そんなに気負わなくていい。恋は会社のために十分よくやってくれている。恋の作った過去の見積り書をいくつか見せてもらったが、先方の希望を踏まえた上で新しい提案がきちんとできていて大変評価すべき内容だった。あとは秘書としての仕事に少しずつ慣れてもらいながら俺という人間を知ってくれたらそれでいいから」

「でも……」

「でもはナシ。それとこうやって二人で顔を近づけて仕事以外のことを話すときは気軽に話して欲しい。恋に敬語を使われると……こう、立場上もあるが何だか気を遣わせているようで申し訳ない気持ちになってしまって。上司と部下の関係の前に俺たち婚約者同志なんだから」

私は修哉の口から出た、婚約者という言葉に胃の奥がそわそわしながらも嬉しいと思ってしまう。自分は本当にどうしてしまったのだろうか。

昨日出会ったばかりで修哉のことは何も知らない。それにこの契約だって修哉の気まぐれということだって十分に考えられるし、そもそもこんな何でも持っている『四つ葉の王子様』と呼ばれている修哉が、私に一目ぼれすることなんてあるのだろうか。