「……もう終わったことだから」

「恋先輩ってあっさりなんですね~てっきり土曜日、博樹からプロポーズでもされるんじゃないかって浮かれながらレストラン行かれたのかと思って心配してて〜」

私は未希からのあからさまな悪意ある言葉に耳を塞ぎたくなってくる。それでも朝から会社で涙も弱いところも誰にも見せたくない。

「博樹とは別に結婚前提でもなかったし、恋人がいながら浮気するような奴、別れて正解だと思ってるから」

「あれ、やっぱり怒ってます~?」

「怒ってない。もうこのことについて話しかけてこないでっ」

「わぁ、こわーいっ」

「…………」

未希はようやく私から離れると自身のデスクに座る。そしてパソコンをのぞき込んでいると再び、はっと私の方に顔を向けた。

「あ! 恋先輩~、社内メール見ました? 『四つ葉の王子様』が帰って来るとか?」

「四つ葉の王子様?」

「知らないんですか~、うちの副社長の四葉修哉のあだ名ですよ」

「へぇ……そう、なんだ」

私は涙を喉の奥に引っ込めると、未希の言葉に昨日の修哉との契約のことが脳裏をかすめる。

「すっごいイケメンな上に~しごできだし。語学堪能、頭脳明晰。婚外子ってだけがマイナスポイントだけど~社長が次期後継に指名してるし~? 今日から一緒に働けるなんてドキドキしちゃう~」

そのことに関しては未希に同感だ。昨日あんな契約を交わした修哉と同じ職場だなんて、なんだか急にそわそわしてしまう。

その時ふいに事務所がざわっと騒がしくなった。見れば部長と一緒に修哉が颯爽と事務所に入って来る。