「この僕たちが昨日交わした仮の婚約者契約、通称『仮婚』のことやっぱり記憶にないでしょうか?」

「仮婚?! ないです……っ、本当にごめんなさい。全くもって、お、覚えてなくて……」

「そうですが……。昨日は今お付き合いされている方もいないとのことで僕の申し出に快くサインして頂いたのですが……」

「それはどう言う……」

「単刀直入に聞きます。恋さんは僕の婚約者になるのは嫌ですか?」

「それは……」

修哉が口篭った私から契約書を受け取ると眉を下げる。

「そんな顔をされると……少々落ち込みますね」

「え……いやっ、その何て言ったらいいのか。その私なんかじゃ、その、四葉副社長には不釣り合いかと。それにそもそもなぜ私なのかも……わからなくて……」

私の言葉にすぐに修哉がはっとした顔をする。

「あ! それもお忘れでしたか。ではご説明を。僕は昨日恋さんに一目ぼれしてしまったんです!」

「へ⁉」

思わず素っ頓狂な声を出した私を見ながら修哉が綺麗な二重の目を細めた。

「ちなみに僕が一目ぼれした女性は神と仏に誓って恋さんが初めてです」

「ちょっと待ってください……えぇっと……」

「もし恋さんが僕を生理的に受け付けないとかじゃなければ少しずつお互いを知っていけたらと思っています」

そう言うと修哉が私の方へ一歩距離を詰め、私をのぞき込んだ。ギシッとキングベッドのスプリングが軋む。

「恋さん、ダメですか?」

その修哉の真剣な瞳に私の心臓は大きく跳ね上がった。