「えぇっと、ごめんなさい……記憶が全くなくて……」

「ああ。昨日はタクシーに乗っても恋さんが起きないので僕の家に連れて帰ったんです」

「嘘……っ」

私がお酒が弱いのは事実だが、記憶をなくしたのは初めてだ。

「大事なことなので聞きますが、記憶はどのくらいないですか?」

「そ、それはどういう意味でしょうか?」

「ちなみに僕の名前は?」

「えっと修哉、さん?」

記憶を手繰り寄せながらおずおずと答えた私に修哉がふっと笑った。

「正解。昨日ここに連れて来てから、恋さん一度起きたんですけど、そこから眠るまで結構お話してくれましたがそのことは?」

「全然記憶がなくて……」

「二年付き合った恋人に振られたこと、後輩に寝取られたこと、クローバーデザインで営業事務をしていること、あとはご両親を事故で亡くしたあとおばあ様に育てられ、そのおばあ様も五年前に亡くなったこと……そして初恋の男の子の名前が「しゅうちゃん」だということを僕に話してくれましたよ」

「えっ、そんなことを」

「僕は嬉しかったですよ。恋さんのこと色々知れて」

修哉はあまりのことに目を見開いて固まっている私にむかってニッコリ微笑む。私はすぐにベッドの上で正座をすると深く頭を下げた。

「ご、ごめんなさい……っ! 酔ってたとはいえ見知らぬ方にこんなご迷惑を……あ、あの昨日のことはその綺麗さっぱり全部その忘れて貰えたら……」

「それはできません」

「えっ!!」