「え? あの……」

見上げた男性は艶やかな黒髪を夜風に揺らしながら柔和な笑顔私に向けていた。

(だ、誰……このイケメン……)

「大変失礼ですが……恋、さんというんですか?」

「えっ、なんで名前」

「すみません。さっき、その……あなたがそう言っているのを聞いたしまったので……」

「あ……えっと有川恋、と言います」

そう答えてから私は慌てて口を手のひらで覆った。

(なんで私、イケメンだからって知らない人に名前……)

「素敵なお名前ですね。ちなみに僕の名前は修哉(しゅうや)と言います」

「あの、ご丁寧にお名前すみません。あとなんか……お恥ずかしいところを色々お見せしてすみませんでした。それでは、し、失礼します」

私は修哉と名乗った男性にぺこりと頭を下げると公園の出入り口に向かって歩いていく。

(やばい、飲みすぎた……はやくタクシー乗らなきゃ……)

「あ……っ」

私が体のバランスを崩してよろめけば、すぐに修哉が私の背中を支えた。

「危ないな、送りますよ」

「だ、大丈夫ですから……っ」

「大丈夫というなら、僕こそ恋さんを送るくらい何てことないですよ」

(ちょ……名前……)

修哉に名前を口にされた瞬間、心臓が跳ねてカッと身体が熱くなる。

「行きましょう」

「いえ、自分でタクシー拾いますので……」

そう言って私が修哉の手を押し返した時だった。目の前がくるんと一回転したと同時に私の意識はふわりと宙を舞った。