「叔父にはとても感謝してるんです。それに繭にも嫌な思いをさせてしまったのも事実だから」
「灯ちゃん……」
「私はきっと、一生繭に償い続けながら、生きていくの。私が幸せな顔したら、繭は怒るから。……でも、今こうして聡さんに話を聞いていただけて、私幸せです。ふふっ。今は繭が見ていないから、こんな素敵な思いをしてもいいかな」

 頬を流れる涙が彼に見えないように、聡さんの身体に自分から強く抱きついた。油絵の具のいい匂いがするその胸板に頬をそっとすり寄せる。

「っ」

 聡さんが少し強張った気がした。その僅かな動きで、ふと自分が甘えすぎていたことに気づき、慌てて身を引く。だがすぐに引き止められ、またぎゅうっと抱きしめられた。

「灯ちゃん。俺には灯ちゃんが、とても可愛く見える」
「ふふ、お世辞はいいです」
「お世辞じゃないよ。灯ちゃんに初めて会った日、モデルにしたいって強く思うほど、魅力的に見えた。今はもっとそう強く感じてる」
「……嬉しいです。SATOさんのモデルなんて、いまだに恐れ多いですけれど」
「聡」
「え?」
「聡って、名前で呼んで?」

 だけど名前を呼ぶよりも前に、私の唇は塞がれた。

「いや?」

 突然の展開に驚きながらも、全く嫌じゃない。私が首を振ると、またゆっくりと聡さんの顔が近づいてきた。慌ててそっと目を閉じると、柔らかな唇が私のそれと重なる。キスは初めてじゃないのに、心臓がバクバクと鳴り始めた。次第に激しくなるキスに、思わず息が漏れる。

「あの、さとるさ……っ、まっ、待って! んん!」
「ん?」
「さ、さと、さとるさんっ!」
「呼び捨てでいいのに」

 余裕そうにクスリと笑いながら、聡さんは私に繰り返しキスをした。私が立っていられなくなるまで続けられたそれは、二人でベッドに入ってからも優しく激しく続いたのだった。