〝一之瀬兄弟が幼なじみを取り合って対決〟なんて噂はすぐに全校に広まってしまった。
〝生徒会長は魔性の女〟だとか〝負けた方は学校を去る〟だとか、尾ひれもついてるみたいだけど。

試験は七月の初めだから、あと二週間と少ししたら結果が出る。

その二週間も、私は今まで通り志月に勉強を教えてもらってる。
「他動詞にはaboutはいらない」
「あ、またやっちゃった」
違うのは、もう架月のノートはとってないってことと……

「架月は今日も図書館なの?」
「俺と陽波が一緒にいるのを見てるとムカつくって」
志月が苦笑いで言った。
架月はあれから真面目に授業に出て、休み時間も放課後も勉強してる。

「急に志月と勉強で勝負なんて、何考えてるんだろうね」
「でも陽波、うれしそうだよ」
「え……」
志月の言葉に首をぶんぶん振る私を見て、彼はまた苦笑いで私の頭をなでた。

「いいよ、気をつかわなくて。架月が変わってくれて、俺だってうれしいんだから」
「……うん、私も」

志月は本当に大人で優しい。