「……だってあいつ、お礼も言わないし、何も返してこないだろ?」
私はうつむいて首を横に振る。
「そういうの、欲しいわけじゃないから……」
これは……ただの罪悪感。
「だけど架月だってもうガキじゃないんだからさ、〝あの日〟のことはもう忘れていいんじゃない?」
また、首を横に振る。

架月はきっと、今でも私を許してない。



中一の夏の終わり。

あの頃は私と架月はお互いのことが好きだった。幼いなりに、恋人として。
『離婚? 架月たちのお父さんとお母さんが?』
ある日の放課後、架月と二人で行った家の近くの河川敷で聞かされた離婚の話。
『まあ、わかってたんだけど。うちの親って全然仲良くなかったから』
『そうなんだ……』
『ヒナが落ち込むことないじゃん』
架月が頭をクシャクシャッてしてからなでてくれた。

私はその頃から髪を伸ばし始めていた。
あの頃の架月は、髪は今と同じように真っ黒だったけどサラッとした短髪で、スレたところなんて全然無かった。