四月の終わりの放課後。

「ここはこの公式を使えば簡単」
「あ、そっか。さすが志月(しづき)、わかりやすい」

私、渡加陽波(とがひなみ)・高校二年は、幼なじみと勉強中。
ローテーブルに向かい合って数学のテキストとノートを広げる。

「志月に教えてもらわなかったらテストの点が全教科平均10点は下がりそう」
「そんなことないって。陽波は理解が早いよ」

そう言って笑いかけてくれるのは、一之瀬(いちのせ)志月・同じく高二。
ダークブラウンの髪がつややかな、爽やかで優しい笑顔のイケメンくん。
ちなみに私はストレートの黒い髪を長く伸ばしている。

高校に入学してからは放課後、だいたいこうして志月と勉強をしている。
私にとっては塾に行くよりわかりやすいし、志月は塾なんか行かなくても学年トップの学力で、私に教えながら復習しているらしい。この春からは生徒会の副会長なんかもしてて、彼はいわゆる秀才ってやつ。

志月に勉強を見てもらうのはすごくありがたいんだけど、一つだけ悩ましいことがある。

「……ぁんっ……」

二人の会話の(はざま)に、壁の向こうから若い女の子のただならぬ声が小さく漏れ聞こえてくる。