狸親父はさっきから好みの女を見つけて、いちゃいちゃしている。こっちの気も知らないで…俺はイラつきながら、ホール全体に目を向ける。

あの男!!
異変に気付き、瞬時に判断して走り出す。
『マル対外、赤い服に黒ズボンの男!手に何か持っている!』
インカムでみんなに伝えながら、俺は机を飛び超え、何とか狸親父の一歩手前で、男を抑える事に成功する。体術で抑え込み持っているナイフを取り上げる瞬間、先程まで追尾してたマル対の男が狸親父めがけて走り出す。

『三好!』
1番近くにいる三好にインカムで呼びかけ、目線を離した瞬間、ナイフの切先が俺の手の甲を掠める。急ぎ取り上げ、組み敷く男に手錠をかける。

その足で、マル対と揉み合う三好を援護する為走り寄り、相手に飛び蹴りをくらわせ倒す。
それでも尚逃げようとするから後ろ手を回し締め上げる。

その間に仲間であろう女を島津が取り押さえ、出入口付近まで来た残り1人は、小倉が得意の空手で最後の丸タイを撃退する。

俺は全てに目を配り。他の対処者がいないか見渡す。
その後で、自分の手の傷をネクタイで縛り上げて素早く処置する。

全てが解決したことを悟り、フーっと息を吐く。
「三好、撤収。」
俺は三好に指示をしてその場の混乱を鎮めるた為、

「失礼しました。問題ありませんので、引き続きお楽しみを。」
会場全体に声をかけて、俺と三好と小倉の3人は確保者を連れてその場を後にする。後は島津に任せれば大丈夫だ。

対象者を覆面パトカーに押し込み2人に頼んで、俺は自家用車にと足を向ける。

「班長!手の傷。大丈夫ですか?」
小倉が心配して救急箱を持って駆け寄ってくるが、問題ないと俺は手を振って車に乗り込む。

これは俺の初歩的なミスだ。先にナイフを取り抑えることを優先するべきだった。

エンジンをかけながら携帯を見る。
紗奈からの連絡が1件。
『明日は定時で帰ります。』
とだけ、メッセージが入っていた。
明日…行ってもいいという事か…?

手の甲の傷を見て…心配させるだろうかと、少しの不安を胸に仕事場へと車を走らせる。