「それじゃあ、行ってくるわね。お留守番頼むわよ」

スナイデル王国への出発の日。
クリスティーナは身を屈めて、子ども達を順番に抱きしめる。

我が子と離れるのは初めてのことで、気を抜けば涙が溢れそうになるが、子ども達を不安にさせてはいけないと懸命に笑顔を作った。

「お父様、お母様、どうかお気をつけて」

大人びたアレックスは、キリッとした顔つきで頼もしい。

「おかあさま、はやくかえってきてね」

フローリアは寂しそうにしながらも、一生懸命涙をこらえている。

「お土産たくさん持って帰ってくるからね、フローリア。楽しみに待っててね」

クリスティーナはギュッとフローリアを抱きしめて、明るく声をかけた。

事情が分かっていないマックスは、リリアンの腕に抱かれて、にこにこ手を振っている。

後ろ髪を引かれながら、クリスティーナは三人の子ども達の頬にキスをすると、立ち上がった。

「リリアン、ロザリー、アンドレア。どうか子ども達をくれぐれもよろしくね」
「ええ、任せてお姉様。こちらのことは気にしないで。みんなでたくさん楽しいことして待ってるわ」
「ありがとう、リリアン」

「アンジェ様、道中お気をつけて。フィリックス様も」
「ありがとう、ロザリー」

「フィル、アンジェ。無茶だけはするなよ」
「分かってる」

それぞれに固く頷き合うと、フィルとクリスティーナは意を決して馬車に乗り込んだ。

「いってらっしゃい!おとうさま、おかあさま」

フローリアの可愛い声が耳に残る。

「行ってきます!」

走り出した馬車の窓から、クリスティーナはいつまでも手を振っていた。