一行の馬車は大通りの端まで来ると、大きく右に曲がる。

そこから凱旋広場を横切り、また右に曲がって王宮へと戻れば、パレードは終了だ。

そのあとはロイヤルファミリーがずらりと王宮のバルコニーに並んで、ファンファーレや祝砲、花火などで祝う式典がある。

空は雲一つない秋晴れ。
爽やかなそよ風が吹き、人々の笑顔を見ながら、クリスティーナも幸せな気持ちを噛みしめていた。

その時だった。

「うわっ!」

すぐ後ろの子ども達を乗せた馬車から、ヒヒーン!という馬のいななきと、御者の驚く声が聞こえてきた。

何事かと振り返ったフィルとクリスティーナは、次の瞬間一気に青ざめる。

馬車の前に飛び出して来たらしい子犬に驚いて、馬が前足を高く上げていた。

御者がなんとか手綱をさばいて落ち着かせ、馬が前足を下ろした時、今度は子犬を追いかけて小さな男の子が飛び出して来た。

「危ない!」

誰もがそう叫び、御者が大きく手綱を引く。

フィルは馬車から飛び降り、男の子に駆け寄ると、素早く抱きかかえて馬から遠ざけた。

「申し訳ありません!ありがとうございます、王太子様」

母親が慌てて駆け寄り、男の子と子犬を抱きしめてフィルに頭を下げる。

フィルが頬を緩めて男の子の頭をなでた時だった。

「キャー!!」

一斉に悲鳴が上がり、子ども達の馬車を振り返ったフィルは、再び血の気が引いた。

驚いて興奮状態になった馬が暴れ、御者を地面に振り落とすと、そのままの勢いで林の中に向かって走り出したのだ。

「アレックス!フローリア!マックス!」
「おとうさま!」

暴走する馬車に向かって叫ぶと、フローリアの悲痛な声が聞こえてきた。

すぐにあとを追いかけようとする近衛隊の馬を止め、フィルが代わりに跨がって一気にスピードを上げた。

「みんな!しっかり掴まってるんだ!」

追いかけながら、フィルは子ども達に大声で叫ぶ。

「おとうさま!おとうさま!」
「フローリア、大丈夫だ。すぐに助ける!アレックス、フローリアとマックスを頼む!」
「はい!」

フローリアは泣きながら必死に馬車に掴まり、アレックスは唇を引き結んで、ワンワン泣きじゃくるマックスを抱きしめている。

フィルは馬車を追い越し、暴走している馬に近づくと、手綱に片手を伸ばした。

「くそ、あと少し…」

半分馬から身を投げ出すようにしながら、なんとか暴走する馬の手綱を握った時、目の前に広がっているはずの木々が突然開けた。

(崖だ!)

そう思うが先に、フィルは渾身の力で暴走する馬の手綱を引いた。

「ヒヒーン!」

馬がいななき、前足を上げてからようやく動きを止める。

だが、突然止まった馬に対して、馬車は遠心力に振られて大きく前方に弧を描いた。

その先に広がるのは、林ではなく……