「おかあさま、はやくはやく!」
「待って、フローリア」

フローリアに小さな手で引っ張られ、クリスティーナは苦笑いしながら街を歩く。

スナイデル王国から帰ってきて1ヶ月が経ち、フィルとクリスティーナは、愛する家族と共に穏やかで幸せな日々を送っていた。

クリスティーナは時折こうして、街を探索して回る。

王太子妃が自分の足で街を歩いて回り、ふらりと市場に立ち寄って買い物をするのは前代未聞だと皆を困惑させたが、クリスティーナは気にしなかった。

(スナイデル王国も平和な国として有名だったけれど、実際にはケイティのように貧しさに苦しんでいた人達がいる。このコルティアにも、同じようなことがあるかもしれない。それを知るには、実際に自分の目で街の様子を見て回らないと)

そう思い、クリスティーナは暇を見つけては子ども達を連れて街に繰り出していた。

世界に平和の輪を広げていきたい。

フィルとクリスティーナの想いは同じ。
そして子ども達にもその想いを伝えていきたかった。

「あ、あぶない!」

前から歩いてきた女の子がつまずいて転んだのを見ると、フローリアはクリスティーナの手を解いて駆け寄る。

「だいじょうぶ?けがしてない?」
「うん、ありがとう」

フローリアの手を借りて女の子は立ち上がる。

「お嬢さん、ありがとう…、まあ!フローリア様!」

後ろから近づいて来た母親が、我が子を助けたのがフローリアと知って慌てて頭を下げた。

「畏れ多いことでございます。フローリア様、クリスティーナ様」
「いいえ、当然のことよ」

そう言うとクリスティーナは微笑んでフローリアの頭をなでた。