ダイニングルームでご馳走を振る舞われたあと、フィルとクリスティーナは身支度を整えて帰る準備をした。

「もう少し休んでいかれた方が…」

心配する王妃に、クリスティーナは微笑んで首を振る。

「子ども達が待っていますので」
「そう。それなら早く帰ってあげないとね。でも本当にあなた達がご無事で良かったわ。わたくし達のことなど助けずに、すぐにここを去ることだってできたのに」

そう言われて、確かに…と、思わずクリスティーナはフィルと顔を見合わせた。

牢から脱出したあと、そのまま馬に乗って立ち去ることもできたのだが、二人にはそんな発想はまるでなかった。

「こんなに酷いことをしたこの国を助けてくださって、本当にありがとう。心から感謝いたします」

お礼はまた改めて。今はとにかく早くお子様達のところへ、と、二人は豪華な馬車を用意される。

フィルはしっかりと太陽の剣を腰に差し、最後にクリスティーナと共に見送りの人達を見渡した。

クリスティーナは、遠くからそっとこちらの様子をうかがっているケイティを見つけると、真っ直ぐに歩み寄る。

「ケイティ」
「クリスティーナ様…」

ケイティは目に涙を溜めて深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんでした。どのような罰も受け入れる所存でございます」
「罰なんて、何もないわ」

牢屋に入れられたグラハム2世はこれから然るべき処罰を受けるだろうが、ケイティに非はないと、クリスティーナは国王と王妃に話してあった。

「ケイティ、ご家族のことで困ったことがあったら、いつでもコルティアに手紙をちょうだいね。力になれたらと思っているから」
「クリスティーナ様…」

ケイティは驚いて目を見開いてから、ポロポロと涙をこぼす。

「もったいないお言葉でございます。クリスティーナ様、本当に申し訳ありませんでした。お優しいクリスティーナ様のことは、一生忘れません」
「ありがとう、ケイティ。またいつか会いましょうね」

クリスティーナはケイティの背中に手を添え、優しく微笑んでから馬車に乗り込んだ。