「かかれ!」

グラハム2世のかけ声を合図に、兵達が一斉にフィルとクリスティーナに向かって来た。

キン!と振り下ろされる剣を払いのけては、また別の兵と相まみえる。

先が見えないが、今はとにかくやり過ごしてチャンスを待つしかない。

ひたすら剣をさばいていると、やがてクリスティーナの剣が刃こぼれし始めた。

「なんてもろい剣なのよ。どういう工程で作ってるのかしら、この不良品!」
「ちょっ、クリス。国王陛下に聞こえるってば」
「だってこれじゃあ、ろくに戦えないもの。勝手に拝借しておいて文句は言えないけれど」
「充分言ってるよ!」

国王に聞かれないかヒヤヒヤしながら戦っていると、フィルの剣もガツンという衝撃と共に真ん中まで刃が欠けた。

「あー、こりゃダメだ」
「でしょう?」

クリスティーナは、いつも身に着けているコルティアの短剣を使いながらフィルを振り返る。

「フィル、他に武器はあるの?」
「んー、俺の剣は取られちゃってない」

そう言うと、フィルは素早く部屋の中に視線を走らせ、壁に掛けられていた何やら豪華な鞘の剣を見つけた。

「国王陛下。この剣をお借りしても?」

フィルがスナイデル国王に声をかけると、戸惑うような声が返ってきた。

「あ、ああ。使えるなら構わないんだが…」

フィルは剣を交えながら後ずさると、思い切り敵の剣を振り払ってから、壁の剣を手に取る。

アンティークのように古い剣だが、グリップも握りやすく、鞘から引き抜いてみると、ブレードはカッティングやエッジも見事なまでに美しい。

一瞬見とれてから、間髪をいれずに襲ってくる敵の剣を受け止めた。

「おっ、何だこれ?」

フィルは思わずまじまじと剣を眺める。

敵の剣を受け止めた時の衝撃が、驚くほど手に伝わりにくく、かつ安定している。

それに重さはしっかりあるのに、とても扱いやすい。

まるでずっと探していた相棒に巡り会えたような感覚になるほど、その剣はフィルの手に馴染んだ。

これならいけると、フィルは確証に似た感覚を覚え、兵を軽々とかわしながら一気にグラハム2世に詰め寄った。