曲がり角まで来て顔だけ出したフィルが、廊下の先の見張り役を見て、ビンゴ!とクリスティーナを振り返る。

「恐らく一家四人ともあそこに軟禁されてるな」
「入り口の見張りは二人…。中にもいるでしょうね」
「ああ。何人いるかは入ってからのお楽しみ。行くぞ」

どこまでも軽い口調のフィルに半分呆れてから、クリスティーナもすぐあとを追う。

「ヘイ!」

フィルが素早く入り口に駆け寄り、こちらを振り向いた見張りの兵に、ポケットに入れてあった鍵の束を投げる。

咄嗟に鍵を受け取った兵に、フィルは一気に体当たりした。

「ねえ、フィル。今のダジャレ?」

もう一人の兵が慌てて剣を構え、クリスティーナはそれに応戦しながらフィルに尋ねる。

「何が?」

フィルは、倒した兵を縛り上げながら聞き返した。

「だから、さっきのオヤジギャグ。兵に向かってヘイ!って」
「はっ?違うわ!それに俺はオヤジじゃないぞ」
「オヤジでしょ?だって父親なんだから」

クリスティーナは、兵と剣を交えつつ淡々と答える。
フィルは呆れ気味にクリスティーナを見た。

「クリス、真面目に戦え。舌噛むぞ」
「確かに。油断は禁物よね。そろそろキメさせて頂くわ」

キン!と敵の剣を頭上で受け止めると、即座にクリスティーナは身を屈めた。
相手に背中を向けたと思いきや、その勢いのままクルリと回り、右足を高く上げて踵で敵の頭を蹴り飛ばす。

グエッと兵が妙な声で倒れ込むのと、フィルが、あーー!!と叫ぶのが同時だった。

「びっくりしたー。なあに?」

床にうつ伏せに倒れた兵の手を背中に回して縛りながら、クリスティーナが怪訝な面持ちでフィルを見る。

「なあに?じゃない!そんな格好で回し蹴りするな!見えるだろ?」
「何が?」
「な、何が?って、それは、その…」

フィルが赤い顔でアタフタしていると、ガチャリと扉が開いて、ダイニングルームの中から兵が現れた。

「どうした?騒がしいな。お、お前は!コルティアの王太子?!どうしてここに…」
「知るかよ!それより、見るんじゃないぞ!」

フィルは、クリスティーナがまたミニスカートを翻して戦うのを回避しようと、さっさと敵を倒しにかかる。

「このこのー!見るんじゃなーい!」

何事かと、続々と部屋から出てくる敵を、フィルは目にも止まらぬ速さで仕留めていく。

「すごーい!さすがね、フィル」

フィルは敵の剣を弾き飛ばしては、みぞおちを肘で打ち、次々と兵を倒していく。
その傍らで、クリスティーナはせっせと兵を縛り上げていった。