「なかなか座り心地がいいな。これが玉座というものか」

グラハム2世は黄金の肘掛けに手を置き、真紅の椅子にゆったりと背を預けた。

弟である現国王とその家族は、ダイニングルームに閉じ込めてある。

コルティア国王太子夫妻を幽閉したと告げたが、実際にこの目で確かめるまでは信じられないと言い出し、仕方なくこれから国王だけを王太子妃のいる塔に連れて行くことにした。

「さてと、そろそろ行くとしよう。あいつも手枷を付けられた王太子妃を見れば、即座に俺に王座を空け渡すだろうな。ククッ」

自然と笑いが込み上げてきた時、大変です!と、手下が部屋に駆け込んできた。

「何事だ?」
「はっ!コルティア国王太子妃が、塔から抜け出した模様です」

なんだと?!と、グラハム2世は立ち上がる。

「バカ者!見張りは何をしていた?!」

するとまた慌ただしく、別の手下が部屋に飛び込んでくる。

「コルティア国王太子に逃げられました!」

なっ…!と、グラハム2世は絶句する。
ワナワナと身体を震わせると、血走った目を見開き、大声で叫んだ。

「すぐに捕らえろ!絶対に逃がすな!」
「はっ!」

手下達がバタバタと部屋をあとにすると、グラハム2世は拳で玉座の肘掛けをガツンと殴る。

「くそっ、あの王太子どもめ。生かしておいてやったというのに」

ギリッと奥歯を噛みしめるが、気持ちを落ち着かせてゆったりと座り直した。

二人に逃げられたことは、国王達に知られる訳にはいかない。

「なあに、すぐに見つけてまた牢屋にぶち込めばいいだけの話だ。今度こそ鎖でがんじがらめにしてな」

焦ってはいけない。
この日の為に何年も我慢してきたのだ。

今こそ国王にふさわしい威厳と落ち着きを持って対処しなければ。

グラハム2世は、鋭い視線で宙を睨みつけながら、作戦を練り始めた。