「お、おーい。ちょっと来てくれないか」

剣を後ろから首に当てられている兵は、壁から顔だけ出して声をかけた。

「なんだ?どうかしたのか?」
「あ、ああ。ちょっと怪しい人影を見かけて、皆で探してるんだ。手伝ってくれ」
「分かった。お前はこのままここで見張ってろよ」

通路の奥にいた一人が、もう一人をその場に残してこちらに歩いてくる。

クリスティーナは兵を羽交い絞めにしながら階段を後ろ向きに上がっていった。

「怪しいやつってどんなやつだ?」

見張りの一人がそう言って、足元を見ながら階段を上がってくる。

半分ほど上がったところで、クリスティーナは捕えていた兵を思い切り前に押し倒した。

「うわっ!」

押された兵は、下から上がって来ていた見張りの兵にぶつかり、そのまま二人で階段の下まで転がり落ちる。

「いってー!このバカ。何をやって…うぐ!」

重なり合って床に倒れている兵達に、クリスティーナが上からドスンと覆いかぶさった。

一番下の見張り兵は、男の体重とクリスティーナの体重に押しつぶされて息も絶え絶えになっている。

クリスティーナは素早くロープで、自分のすぐ下にいる兵の手を縛り上げた。

続いて足も縛ると、今度は一番下で下敷きになっている見張り兵の手足を縛り上げる。

「おい、どうしたんだ?!」

物音に気づいたもう一人の見張り兵が、腰から剣を引き抜いて走り寄って来た。

クリスティーナもいよいよ腰に差した剣を抜いて構える。

「久しぶりだわ。腕が鳴るわね」

ニヤリと笑うクリスティーナに、見張り兵は怪訝そうに立ち止まった。

「なんだ?女か。そんな格好で何をやっている」

「あら、わたくしを見くびるとどうなるか。油断は禁物ですわよ?」

クリスティーナはにっこりと微笑んでから、一気に仕掛けた。

素早く駆け寄って間合いを詰めると、剣を上からヒュッと振りかざす。

「うわっ!」

兵が咄嗟に剣を構えてクリスティーナの剣を受け止める。

だがそれはクリスティーナの狙い通りだった。

クリスティーナは両手に力を込めて、兵の剣を大きく横に振り払うと、相手の懐に飛び込み、短剣の切っ先を喉元に当てた。

「そこまでよ。少しでも動いたら命はないわ」

ウグッと妙な声を上げて、兵は手にした剣をポトリと床に落とす。

そのまま膝を折ってうなだれる兵の腰から、クリスティーナは鍵の束を取り上げ、兵をロープで縛り上げた。