その頃、クリスティーナは城に隣接する使用人達の離れに来ていた。

現国王の使用人なら、自分を保護してくれるはずだ。

そう思っていたのだが、夜明け前にしては慌ただしい様子に、何事かと窓からそっと中をうかがってみる。

「どういうことだ?一体、何が?」
「分からん。だが、どうやらクーデターらしい」
「クーデター?!それはもしや、グラハム2世様の?」
「ああ。既に現国王には宣言されたらしい。『コルティア国王太子夫妻を幽閉している。従わなければ王太子夫妻の命の保証はない』とな」
「なんと…。では我々も、グラハム2世様に従わなければ命はないということか」
「そうだ。既にあのお方の手下が、この離れにも詰めかけてきた。いいか?黙って彼らの言うことに従えよ?」
「分かった。今はそうするしかないな」

護衛の兵らしき数人が顔を突き合わせて話し合い、バタバタと去っていく。

クリスティーナは、壁に寄りかかってため息をついた。

(タッチの差で間に合わなかったわね。いいえ、先に彼らに保護されたとしても、その後あの黒幕の執事、グラハム2世と言ったかしら?あいつに引き渡されるのなら同じことね。むしろまだ誰にも声をかけずにいて良かったわ)

さて、どうする?と、クリスティーナは冷静に考える。

とにかく今はできる限りの武器を身に着けておこうと、いくつかの部屋を覗きながら、護衛兵の詰め所に忍び込む。

(剣は2本で限界ね。動きづらくなってしまうもの。あとはロープと…)

ベルトも拝借して腰に剣を差すと、改めて自分の出で立ちに驚く。

(ひゃー、ドレスが短い!)

太ももに忍ばせている短剣も、もはや丸見えだ。

(ま、いいか。剣を腰に差しているのに、短剣だけ隠しても意味はないわね)

己を納得させ、クリスティーナは再び物陰に隠れながらフィルのいる塔を目指した。